『歩道橋の魔術師』(呉明益)

一年近く前に勧められてから読むタイミングを逃していたが、漸く読めた。年が明けてから映画を観るのと再読にかまけていたのでこれが今年最初に読んだ本ということになる。 呉明益の作品は先に長編の『自転車泥棒』を読んでいて、こちらのテイストが気に入っ…

ピアニストIlze Graubiņaについての覚え書き

J.S.バッハのイギリス組曲6番ニ短調の前奏曲が大好きだ。厳かに轟く低音から始まり、両手で紡ぎ合いながら上下する音型、短いadagioを挟んだ後の劇的なallegroは本当に素晴らしい。一つの悲劇的な英雄譚を聞いているような曲だ。ヴェデルニコフやアンジェラ…

2019年に観た映画振り返り(自宅編)

映画館で観た作品についてはこちら 取り零しがあるのは承知で、記憶に残った作品たちを。 1.ノッティングヒルの恋人 ロマンスっていうのはこういうのを言うんだろうなというぐらい夢のような恋の物語。『イエスタデイ』でも思ったけど、この監督の作品って30…

『イタリア広場』アントニオ・タブッキ

イタリア広場 作者:アントニオ タブッキ 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2009/09/01 メディア: 単行本 『イタリア広場』は1975年に書かれたタブッキの処女作だ。30歳になると必ず死ぬという数奇な宿命を背負う一族の男子たちが、イタリア統一後の王国から…

死者の声を呼び覚ます『めぐり逢う朝』感想

原題は"Tous les matins du monde"(『世界のすべての朝は』) コルノー監督キニャール脚本で17世紀のヴィオラ・ダ・ガンバの名手サント・コロンブと弟子のマラン・マレとの交流を描いた作品。今年はガンバ奏者Hille PerlのCDをよく聴いていたのもあって気にな…

私はいつから夢を見ていたのか 『寝ても覚めても』感想

赤の他人どころか画面の向こうのフィクションの世界の人物なのに、観終わってから一ヶ月経ってもなお彼らのことを考えている。 今年の春先に質問箱を介して『寝ても覚めても』を強くお勧めしてもらっていたが、当時は余裕がなくてあまり観る気になれず、漸く…

待ち人来たる 『福永武彦全集』を買った日

もう十一月も三分の一が過ぎようとしているから、五時の少し前でも宵に差し掛かっていた。 かれこれ二十分は見つめているだろうか。神保町の、主に洋書と個人全集を扱う古書店の棚に掲げられた夥しい数の作家の名を記した値札の中から、「福永武彦全集」ただ…

2019年に観た映画振り返り(劇場編)

年の瀬恒例の #2019年に観た映画ベスト10 なるハッシュタグをやろうとしたものの選びきれなくて初っぱなから躓いてしまった。 というやる気のない理由から、徒然に今年観た映画を振り返ることでお茶を濁そうと思う。案外長くなってしまったのでまずは劇場で…

オルガンのためのトリオ・ソナタBWV527

私はトリオ・ソナタが大好きだ。とりわけ好きなアンサンブル形態の1つといっても良い。バロック時代を席巻した合奏手法として、いわゆるコンチェルト・グロッソー合奏協奏曲なんかが人気だけれど、私は二声と通奏低音のシンプルなトリオ・ソナタ推したい。 …

『自転車泥棒』(呉明益) あるいは遠回りする形見

その本は年々縮小していく、家から一番近い本屋の海外文学のごく小さな棚の片隅に佇んでいた。 おそらく刊行された昨年の秋に新刊として仕入れたものがそのまま中国文学のコーナーに移されたのだろう。周りの本と比べ幾分か厚かった。 基本的にアジア文学と…